能面と能の歩み

小面
小面

現代までの能面の成り立ち

翁面の時代

神聖視されている翁面は平安末期に創作され、鎌倉時代には完成していたらしい。翁面の打ち手として 日光 弥勒が有名である。

創作の時代

能が一大飛躍をとげた世阿弥時代は、能そのものが創造のエネルギーに満ち、新作があいつぎ、それと呼応して役柄・曲柄にふさわしい能面が創造された。優れた面打ちが排出したのもこの時代で、近江に鬼面の上手の赤鶴と女面の上手の越智 越前に 石王兵衛 龍右衛門 夜叉 文蔵 小牛 徳若と続出し、なかでも越前は能面制作の伝統があったようである。能面のなかでも比較的早く創作されたのは神・鬼といった超自然的力にあふれた鬼神の面で、ついで神の化身としての尉面、および人間味のかった老人の面が作られ、幽玄味の強い男面や女面がもっとも遅れて成立したらしい。

完成の時代

このころまで能面の創作が続けられ、一方では、整備も進み様式も完成し、種類もほぼ出そろったと思われるからである。新作面に古びをつける技術は下間少進と出目源介両人の工夫創案という。その少進の『童舞抄』『少進能伝書』などには曲ごとの使用面が書かれていて、互換性を勘案しながら次第に整備されつつあった当時の様子が窺われる。

模写の時代

模作中心の時代であり、それは能の技法の完成と固定とも軌を一にしている。創作活動は停止し、もっぱら名作の写しが行われ、どれだけ本面に近づけるかが研究された。末梢的な技法に走ることになったのである。井関家・越前出目家・児玉家など世襲の家も決まったのもこのころである。

能楽六〇〇年の歩み 平凡社 別冊太陽 日本のこころ 能 (昭和53年11月25日発行)から抜粋